子どもの喘息について
喘息は、気道(気管支)が長期的な炎症によって狭くなることで引き起こされ、呼吸する時にヒューヒューゼーゼーと音が鳴ったり、発作性の呼吸困難(喘息発作)などの症状があります。
子どもは通常時でも気道が狭くいため喘息になりやすく、風邪などのどの感染症に伴って喘息になることもあります。
呼吸にヒューヒューゼーゼーと音があったり、息が辛そうな様子があった場合は、喘息の可能性があります。
お子さんに気になる様子があった場合は、お気軽にご相談ください
気管支喘息の診療
症状が運動や感染症、アレルゲンや気温の変化、季節に関連しているか、ご家族の方にアレルギー疾患がないかも確認の上で総合的に診断します。
喘息の重症度
喘息の重症度は間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型の4段階に分けられています。喘息発作の強さや長さ、頻度、日常生活や睡眠への支障の程度、呼吸機能などを確認して重症度を判別し、それに合わせた治療を行っていきます。
また、既に治療を受けている状態では、その治療によって症状が弱まっていることもあり、症状の強さと本当の重症度が一致していない場合があるため、しっかりと見定めることが重要です。
症状のみを考慮した重症度 (見かけの重症度) |
状態 | 治療を考慮した重症度 | |||
---|---|---|---|---|---|
Step1 | Step2 | Step3 | Step4 | ||
間欠型 | 季節性の咳や軽度の喘鳴が年に数回程度、発症します。呼吸困難がある場合は、β2刺激薬を使うことで、早期に症状が治まります。 | 間欠型 | 軽症持続型 | 中等症持続型 | 重症持続型 |
軽症持続型 | 咳や軽度の喘鳴が月に1回以上程度、発症します。呼吸困難になることもありますが、短時間で治まるため、日常生活には影響がないことが多いです。 | 軽症持続型 | 中等症持続型 | 重症持続型 | 重症持続型 |
中等症持続型 | 咳や軽度の喘鳴が週1回程度、発症します。毎日起こることはありませんが、中発作や大発作を起こすこともあり、睡眠や日常生活に影響があります。 | 中等症持続型 | 重症持続型 | 重症持続型 | 最重症持続型 |
重症持続型 | 咳や喘鳴を毎日発症します。週に1~2回程度は、中発作や大発作があり、睡眠や日常生活に影響があります。 | 重症持続型 | 重症持続型 | 重症持続型 | 最重症持続型 |
(参照:小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020)
喘息が悪化する要因
喘息が悪化する要因は、アレルギー、感染症、気圧や気温の変化、タバコ、花火やお香の煙、ストレスなど、様々です。
また、気管支喘息を発症している子どもは、花粉やダニ、ハウスダストなどのアレルギーを持っていることが多いと言われています。
発作を起こさないようにすることが喘息の治療に大切なため、喘息を悪化させる要因を把握しておくことが重要です。
アレルゲン
アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)が体内に入ることは、アレルギー反応が起き、喘息が悪化する要因です。
アレルゲンは主に、花粉、ダニ、ハウスダスト、フケ、カビ、動物の毛、虫の死骸や糞、布製品の繊維などがあり、何が原因でアレルギー反応が起きているかは、血液検査などで調べることができます。
アレルゲンの少ない環境で生活をすることが重要ですので、しっかり掃除を行い、室内を清潔に保ちましょう。
感染症
風邪などの感染症は気道を含むのどの周囲に炎症を起こします。感染症による気道の炎症が、喘息の悪化を引き起こします。風邪を引かないよう注意し、引いてしまった場合は早めに受診しましょう。
運動
運動が原因で、喘息発作が起こることもあります。運動によって喘息発作を起こすことを「運動誘発喘息」と呼びます。
冷えた空気を口呼吸することで、気道が冷え、喘息発作が起こります。短時間や軽い運動では大丈夫でも、長時間の運動では発作が起こることもあります。また、気温が低く空気が乾燥している冬に起きやすくなります。
なお、動誘発喘息の経験があっても、運動ができないということはありません。症状の重さによって制限は必要ですが、治療を続け発作の予防を行うことで、少しずつ制限を解いて、多くの運動ができるようになります。
気象条件
気温や気圧の変化、空気の乾燥などによっても、喘息発作は引き起こされます。
主に、冬に室内から外に出た際の気温差や、台風などで気圧が急激に変わった際に喘息発作が起こります。
大気汚染物質
大気を汚染している物質が原因で、喘息発作を起こすこともあります。気管支喘息は気管支の粘膜が炎症を起こしており、敏感になっているため、少しの刺激で喘息発作が起きます。
大気を汚染している物質は、花粉、タバコ、花火やお香の煙、PM2.5などがあります。
また、家庭内に喘息の人がいる場合、家での喫煙はやめましょう。外で喫煙した場合も、喫煙後しばらくは吐き出す空気に原因物質が含まれてる場合があるため、喫煙後は時間を置いてから室内に入りましょう。
心因・ストレス・疲労・
睡眠不足など
強いストレスによって、喘息発作を起こしやすくなることもあります。
疲労や睡眠不足に気を付けましょう。
喘息の治療
当院は、小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020に従い、治療を行っていきます。
通常、発作を予防する「長期管理薬」を日常的に使用しつつ、発作時にはそれを止める「発作治療薬」を使って治療していきます。
発作時の治療
発作時には、発作の重度に合わせ支拡張薬やステロイドなどを使います。
気管支を広げ、発作を止める働きがあります。
強い喘息発作の特徴
以下のような様子がある場合は、早急に受診しましょう。
生活状態
- 話せない
- 歩けない
- 遊べない
- あまり食べられない
- 横になれない
- 眠れない
など
全身状態
- 顔色が良くない
- 唇や爪が白い
- ボーっとしている
- チアノーゼが起きている
- 声をかけても反応がほぼない
- いつもより落ち着きがない
- 暴れる
など
呼吸や脈の状態
- 息が上がっている様子が遠目でも分る
- 呼吸すると鎖骨や胸のあたりがへこむ「陥没呼吸」がある
- 呼吸すると小鼻が膨らんだり動いたりする「鼻翼呼吸」がある
- 動悸が激しくなる
など
長期管理の治療が重要です
定期的に経過や状態を医師に診てもらうことで、その時の状態に合わせて適切な治療が行えるようになります。地道に長期管理の治療を継続し、発作を数ヶ月間起こさないほど頻度が減れば、お薬の量を減らすなどの治療ステップを一つ下げることを考えます。
なお、治療ステップの変更条件やタイミングは人によって異なります。長期管理ではロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)や吸入ステロイド薬(ICS)などが使われ、治療ステップに応じて適切なお薬が選択されます。
治療について、ご質問やご不明な点は遠慮なくご相談ください。
よくある質問
2歳の子どもで、毎日咳をしています。受診する病院によって喘息かどうかの診断が異なり、困っています。
通常は、呼吸に伴って音のなる喘鳴を繰り返す場合や、長期間ある場合は広義に気管支喘息と想定して診療を行います。
喘息の場合、毎日、特に早朝に咳が出る、横になると苦しいなどの様子がよく見られます。
呼吸困難の有無や咳が出るきっかけ等症状について詳細に確認を行います。
また、気管支拡張薬を使用した時の反応も重要な判断基準です。受診して気管支拡張薬を吸入した際、咳や喘鳴がすぐに治まる場合は、喘息である可能性が高いと考えられます。
喘息の治療を行っても咳が続く場合は、感染症による気管支炎など、他の疾患であることが多く見られます。
気管支が弱く、内服薬と吸入ステロイド薬を使用していますが、長期的に使用して問題はありませんか?
通常、「気管支が弱い」という状態は、気管支が敏感で、喘息を起こしている状態を指している場合もあります。
こういった場合、喘息の予防薬を使用することで、状態が改善することがあります。
なお、発作の起きない期間が数ヶ月続くことで、本人やご家族の方が「もうお薬を飲まなくても大丈夫なのではないか」と感じるきっかけになります。
何回か治療薬を飲み忘れた場合でも発作が起きないことがあり、これをもって、「お薬を飲まなくても大丈夫」という意識から、お薬の服用を止めてしまうことがあります。
しかし、症状が改善したように見えても治療薬の服用を止めてしまうと、必ず喘息発作は発生します。
治療薬の服用を止めることで治療の段階は振り出しに戻ってしまい、これを繰り返すことで喘息が寛解せずに大人になっても発作を起こす状態が続きます。
診療を行っている医師は、一定の基準に基づいて処方を行っていますので、自己判断でお薬を止めることや量を減らすことは避けましょう。
喘息を治す目標を達成するためには、医師の指示に基づいて適切な治療を続けていくことが大切です。
体育の授業の時に喘息発作が起きます。対処法はありますか?
運動によって喘息発作が起こることがあり、これは「運動誘発喘息」と呼ばれています。体育の授業で運動を行うことで、運動誘発喘息が起きている状況です。
運動誘発が起こる場合、気道が過敏になっていることが考えられます。運動誘発を起こさないためには、吸入ステロイドの使用などで、しっかり治療を行うことが大切です。
また、運動の前に気管支拡張薬を吸入することも効果的です。発作の予防をしっかり行っていれば、学校での運動を制限せずできるようになるでしょう。
なお、上記のような対応は、通常の治療をしっかり続けている場合に限ります。
日常的な治療を行っておらず、運動の時だけ吸入薬を使用するというのは、適切ではありません。
また、運動は健康のために大切なことです。運動が苦手の場合は、呼吸筋を鍛えるために管楽器を演奏したり、声楽や演劇で腹式呼吸を意識して大声を出すのもよいでしょう。
子どもの喘息は、成長に伴って改善されるのですか?
子どもの喘息は、成長に伴って改善されることがあり、これはアウトグロー(outgrow)と呼ばれています。
適切な治療を受けることで、60%程度の子どもは、最終的には治療が必要ない状態(寛解・治癒)になると言われています。
そのため、子どもの喘息では、アウトグローを目指して治療を行っていきます。
治療の目標として、以下の7つの項目が挙げられています。
- 気管拡張薬の服用が少なくなる
- 1日を通じて症状がない
- 学校の欠席が必要な症状が起こらない
- 運動を含め、日常生活に支障がない
- ピークフロー(吐いた息の速度)が安定している
- 肺機能に異常が見られない
- 運動や冷たい空気の吸入で発作が誘発されない
以上の項目を達成するには、日常的な治療を続ける必要があります。
大切なのは、肺機能や気道の過敏性を正常化させ、発作を起こさないよう予防することです。
子どもの時に喘息発作がある程度治まると、喘息が寛解したと考え、運動で発作が誘発されていても、自己判断で治療を止めてしまう場合があります。
こういった場合、大人になってからの喘息の再発が多いということが調査によって分かっています。
子ども時期に喘息を寛解させ大人になってからの再発を防ぐためには、早期に、かつ適切に治療を受けることが重要です。
3歳頃から、以前から症状があったアトピーに加え喘息も発症しました。発作が起きた時に、ガイドラインに基づいて治療して頂ける地域の医療機関は、どうやって探せばいいですか。
近隣のご家庭との交流の際に、直接、近所のお勧めの小児科医を聞くことが近道です。
近所の小児科医が見つかったら、喘息の症状を記録する「喘息日誌」を作っておき、受診の際に詳細な症状を説明すれば、緊急時の受診に適切なお近くの医療機関を紹介してもらえるでしょう。なお、お子さんの発作の様子と処方された治療薬を比べて確認するとよいでしょう。
男児で、3歳頃から喘息でキプレスの内服とフルタイド100μgの2回吸入を行っています。現在は10歳で発作は起きていないのですが、お薬の量を減らすことはできますか?
お薬の量は、喘息の症状をしっかり確認した上で判断する必要があります症状の改善は、3つの段階に分かれています。1つ目は「症状」、2つ目は「肺機能」、3つ目は「気道の過敏性」です。この3つがすべて改善されることが、喘息が良くなっている状態です。
症状が見られない場合でも、他の肺機能や気道の過敏性にはまだ問題がある場合もあるので注意が必要です。10歳程度の子どもは肺機能の検査が可能なため、しっかり検査を行うことが望ましいでしょう。
お薬の使用で弱い発作まで含めて症状がない場合は、お薬を減らすことも可能なことが多いです。大きな子どもの場合、まずはキプレスを止めてから、次第にフルタイドを100μgから50μgにしていきます。
症状がない場合は、3ヶ月程度の間隔でお薬について検討していくとよいでしょう
喘息発作がある時は、学校を欠席させた方がいいですか?
喘息発作は、呼吸困難が回復すれば、日常生活は可能です。
そのため、発作を止めるお薬で喘息発作が治まった場合は、学校に行っても問題ありません。
学校に通えることは、ガイドラインの治療の目標としても挙げられており、欠席の必要がないよう、症状をコントロールする必要があります。
欠席が必要な場合は、まだ症状をコントロールできていない状態です。また、学校で喘息発作が起きた場合に備えて、自宅での対処法を学校の先生に報告しておく必要があります。
養護の先生に相談した上で、発作が起きた時に使用する気管支拡張薬を学校に預かってもらうことも検討しましょう。
アレルギー疾患を持つ児童の健康管理のために、学校におけるアレルギー疾患管理指導のマニュアルが2009年に作られ、各学校に配られています。保育園におけるガイドラインも2011年3月に作られています。現在、子どもを預かる施設としても、アレルギーに関する取り組みが行われ始めています。園や学校に子どもの健康状態を詳細に報告し、どこまで対応してもらえるか、よく話し合って把握しておきましょう。
ダニを通さないシーツを使用したり、掃除機で汚い空気を舞い上げないように水拭きで掃除するなどの対策を行っていますが、空気を清潔にするにはどんな対策がありますか?
空気をきれいにするには、換気が確実な方法です。自然の風を、30分などの短時間でも部屋に通すのが、一番の換気になると言われています。
また、空気清浄機なども一定の効果があります。
近年の空気清浄機の多くは、HEPAフィルターという大変高性能なものが使われており、ウイルス程の小さいものまで除去が可能と言われています。
ゼーゼーと鳴る呼吸の音が治まれば、喘息が治ったと考えていいですか?
ゼーゼーと鳴る呼吸の音が治まっても、喘息が治ったわけではありません。
呼吸の音は炎症などによって気道が狭くなることで発生しますが、喘息にはその他の症状もあります。自己判断せず、小児科を受診しましょう。
喘息が原因で死ぬことはありますか?
喘息は、死亡の可能性もある病気ですが、吸入ステロイドを用いた治療法が登場した現在では、国内での死亡数は年に1500人程度まで減少しています。
また、死亡例の90%程は高齢者で、喘息が直接の原因ではないものも含まれていると言われています。ただし、欧米と比べると死亡数は多く、軽視せずしっかり治療を受けることが大切です。
発作がある時だけ、救急で受診すればいいですか?
発作時のみ受診することはやめましょう。β2刺激吸入剤を年に数回吸入する程度の軽い症状の場合は問題ありませんが、週に何回も吸入する場合は、吸入ステロイドが必要です。
喘息の症状を自分で判断することは大変難しく、適切な治療を受けないと、気道が狭くなって元に戻らない「リモデリング」という疾患も引き起こされます。
花粉症で、季節によって夜中や朝方によく咳が出ます。喘息の可能性はありますか?
通常、スギ花粉やヒノキ花粉が原因の花粉症では喘息は起こらないと言われています。
ただし、花粉の飛散が多い場合は、咳や喘鳴など喘息と似た症状を発症することがあります。
また、イネ科やキク科の花粉が原因の花粉症の場合、花粉の密度が濃い場所では喘息になることが多く見られます。
出来るだけハウスダストなど埃を出さないよう注意していますが、毎晩子どもの呼吸にゼーゼー音がします。
ご家族の方で、タバコを吸われている方がいる場合、それが原因の可能性があります。
タバコにはアンモニアが含まれており、副煙流には主流煙の100倍もの量が含まれていると言われています。アンモニアは刺激が強いため、気管支喘息で気道が敏感になっている場合、悪化する原因です。
空気清浄機や換気扇を使用している場合でも有効ではありません。現在、気管支喘息にかかっている方は、人口の約7%にまでのぼります。気管支喘息の方を受動喫煙から守るための法整備が行われており、近年は喫煙場所が少なくなっています。